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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)697号 判決 1960年8月25日

控訴人(被告) 埼玉県知事

被控訴人(原告) 浜野政子

原審 浦和地方昭和三一年(行)第一号(例集一〇巻二号19参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、第二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、被控訴代理人において、被控訴人主張の高庄消火栓は本件土地に接する道路上に設けられていると述べ、控訴代理人において、指定地区とは特殊飲食店街を指すすものであり飯能市(本件買収処分当時飯能町)の右地区が本件土地から約五十間の距離にあつたことは争わないと述べ(証拠省略)た外は、原判決の事実に摘示されたとおりであるからこれを引用する。(但控訴代理人の主張事実中一部の訂正については理由中に説明するとおりである。)

理由

本件土地がもと被控訴人の所有に属していたこと、訴外飯能市農業委員会(もと飯能地区農地委員会、その後飯能市第一農業委員会、次いて飯能市農業委員会、以下単に訴外委員会という)が本件土地につき昭和二十二年五月九日不在地主所有の小作地として買収計画を立て控訴人がこれにもとずいて同年八月二十一日被控訴人に買収令書を交付して買収処分をしたことは当事者間に争がない。(一)、被控訴人は本件土地が本件処分当時自作農創設特別措置法(以下単に自創法という)にいわゆる農地ではなかつたと主張するから考えるのに、成立に争のない乙第一号証、原審証人中里和市、同浜野皖、同入子忠三郎、原審並に当審証人綿貫恵三郎の各供述によれば、訴外中里和市は上記買収計画樹立前から被控訴人の諒解を得て荒地であつた本件土地を開墾耕作し麦甘藷等を栽培し、被控訴人に対し謝礼(若くは小作料)として甘藷等を提供していたことが窺われるから本件土地は右買収計画樹立当時においても自創法にいわゆる農地に当つていたものと解する外なく、この認定を覆えし被控訴人主張のように本件土地がその当時農地ではなかつたものと認めることのできる証拠はない。従つて本件土地につき農地としてなされた本件買収処分を無効とする被控訴人の主張は理由がない。よつて本件土地がその使用目的を変更することを相当とする農地であつたか否かについて案ずるに、本件土地の位置、形状及び附近の状況については、原審挙示の証拠及び当審証人綿貫恵三郎の供述、当審における検証の結果を総合すれば原判決の理由に説明するところと同一に認定することができるから原判決の理由中この部分を引用する(原判決第十四枚目表終から四行目以下第十五枚目表終から五行目。すなわち、当事者間に争のない事実及び右証拠によれば本件土地は上記買収処分当時その北側において東西に通ずる巾員約三間の砂利道路に接する外、東、南、西の三方においても至近の距離に巾員一間を下らない道路を控えており、これ等の道路に添つて相当数の住宅が並存し、本件土地も東側において約二分の一の部分が飯能市大字元久下分村柳渕四三〇番地の一一(以下地番数だけを表示する)の畑地に、西側において四三五番地の九、同番地の一の畑地に接する外は殆んど宅地に囲繞されており(但北側は前示道路を挾む)、右各畑も家庭菜園または庭園として使用される傾向にあつて附近に高庄消火栓が設けられ、燈火用電線、上水道が通じ右砂利道路を中心としてその附近は次第に住宅地の形態を整えて来ている状況にあつたこと、また本件土地から稍離れて、(イ)、四〇〇、四〇一附近、(ロ)、四五七、四五八、四五九、四六一、四六二附近(河成断崖)、(ハ)、四五四、四五五附近、(ニ)、四四三附近、(ホ)、四二八附近、(ヘ)、四一六には畑地が点在しているが、右(イ)は特殊飲食店街に近く漸次宅地に転化する傾向にあつたこと、右以外の畑地は本件土地を含む一体の地域の西部から南部に曲折して流下する名栗川に沿つて偏在し、その位置状況は本件土地とは必ずしも同一ではないこと、及び本件土地及びその近接の土地は飯能市役所、または飯能駅から比較的近距離にあつて本来住宅地としての好適の条件を具えていることが窺われるばかりでなく、昭和十九年五月三十一日内務省告示を以て本件土地を含む飯能市(当時飯能町)全域が都市計画区域と定められたが、昭和二十三年五月中埼玉県土地区画整理地審議委員会の議決を経て未だ土地区画整理の行われていない本件土地等につき自創法第十六条の規定による売渡が保留されたまま国有地として国が保管していること、また昭和二十四年四月十四日飯能町農業協同組合が本件土地に農業倉庫建設の目的から被控訴人に対し賃借権譲渡の許可及び土地使用目的変更の許可を申請しいずれもその許可を得たこと、(控訴人は右組合が訴外中里和市と離作の協議をしたのは本件土地の内四畝十三歩についてではなく、本件土地全部についてであつた旨及び控訴人が右組合に対し土地使用目的の変更のための賃借権譲渡を許可したのは本件土地の内五畝については昭和二十四年六月三日または四畝十三歩については同年七月二十六日である旨を主張するけれども右土地の範囲の広狭及び右許可の日時の異同は本件判断の結果には影響はないものと解する、)及び昭和三十年六月中本件土地を含めて飯能市久下地内土地区画整理組合が設立されその後被控訴人にその認可を申請してその認可を得たことは当事者間に争がないからこれ等の事実を参酌(この内には本件買収後の諸変化も含まれて居り、その個々の事実から各別に後記判断がなされ得るというのではないがこれを綜合的に観察)すれば、本件土地は前示買収処分当時において近くその使用目的を変更することを相当とする農地であつたといわねばならぬ。しかしてこのような農地につき買収目的から除外する手続を採ることはなくして立てられた買収計画及びこれにもとずく買収処分は違法であり、しかも上記証拠に照し買収目的から除外されることとなる使用目的の変更を要する事情が顕著(明白かつ重要な事実)であつたと認められる本件土地についてはその事情を無視して立てられた買収計画は当然無効であり、これにもとずいて定められた本件買収処分も当然無効のものと解すべきである。結局これと同一見解の下に被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十五条を適用し主文のとおり判決をする。

(裁判官 梶村敏樹 岡崎隆 堀田繁勝)

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